【論説】効率よく覚える「分類」の仕方

 ミカグラです。

 本を読んでいると、「重要なポイント40選」とか「○○をよくする20の方法」とかあるじゃないですか。そういうのを読むと、決まって思うことがあるんですよね。

 

いや、そんなにいっぱい覚えられなくない?

 

 ということで今回は、「覚える」ために必要な「分類」という手法について、論じていきます。

 

 

 

分類という手法

 多くの概念を一度に覚えるのは難しいことです。この問題を解決するために必要なのが、分類です。分類というのは「類ニ分ケル」、即ち、いくつかのまとまったカテゴリーに分けることを指します。

 では、効率よく覚えるための分類のやり方を説明します。

 まず、覚えるべきいくつかのものから、共通する特徴をもつものをまとめます。こうして、いくつかのグループを形成します。そののち、出来たグループに新しく名前を付けます。さらに、いくつかのグループがまた似た特徴をもつならば、それらもひとまとめにします。これにより、グループに階層構造をつけることができます。

 簡単に言うなら、「共通するものをくくって、グループをつくる」の繰り返しです。

 

分類のメリット

 次に、分類を行うことのメリットを、大きく4つに分けて見ていきましょう。

 

意味づけて覚えやすい

 分類の第一のメリットとして、構造によって意味を持たせられることが挙げられます。文をグループでつなぎ、さらに階層をつけるというのは、それぞれバラバラな点を線で結ぶことと似ています。バラバラなものより、構造をつくって意味づけてまとめたほうが、記憶にかかる負担は小さくなります。ひらがなの適当な文字列15文字よりも、文として成立する文字30文字のほうが覚えやすいのと同じことです。

 

記憶したい事柄をより深く観察できる

 自ら分類をすると、覚えたい概念により長い時間真剣に向き合うことになります。共通点を探すという作業は、シンプルでこそあれ、決して楽にできる作業ではないからです。すると、ただ漫然と覚えようとするよりも記憶として強く定着します。つまり、分類をする過程もまた知識の定着に役に立つ、ということです。

 

階層で重要な順番を認識できる

 分類により階層をつけることにも、メリットがあります。より上の階層につけられた「名前」は、下位にある要素のエッセンスを抜き出したものです。うまくつけられたグループの名前は、いわば下位にある概念たちの「本質」であり、重要度が高いものです。すなわち、階層をつけることで、「重要な順番」を認識することができます。例えば、40の方法を分類して、4つのまとまりに分けることができるとします。そうすれば、まずは4つの大きな階層を覚え、その次に下の階層を関連付けて覚え、……と、順番をつけて覚えることができます。

 

重要なところだけ思い出せる

 階層をつけることは「忘れることへのリスクヘッジともなります。先と同じように、40個のグループを4つのグループに分けることを考えます。すると、40個すべてが思い出せなくても、より上の階層で、より重要であると位置づけた4つを思い出すことは容易でしょう。これにより、すべてを生かすことはできないにしても、そのエッセンスを抜き取って対応することはできます。つまり、忘れることを見越した対処ができるということです。

 

分類を実践する(1) -表現のルール-

 例として、藤沢晃治『「分かりやすい表現」の技術』(以下『表現の技術』とします)で紹介されている16のルールを引用し、これを分類、階層構造をつけることを考えます。

 まずは、『表現の技術』で紹介されている、わかりやすい表現のための16のルールを紹介します。

 

  • おもてなしの心を持て。
  • 「受け手」のプロフィールを設定せよ。
  • 「受け手」の熱意を見極めよ。
  • 大前提の説明を忘れるな。
  • まず全体地図を与え、その後、適宜、現在地を確認させよ。
  • 複数解釈を許すな。
  • 情報のサイズ制限を守れ。
  • 欲張るな。場合によっては詳細を捨てよ。
  • 具体的な情報を示せ。
  • 情報に優先順位をつけよ。
  • 情報を共通項でくくれ。
  • 項目の相互関係を明示せよ。
  • 視覚特性(見やすさ)を重視せよ。
  • 自然発想に逆らうな。
  • 情報の受信順序を明示せよ。
  • 翻訳は言葉ではなく意味を訳せ。

 

 詳細の説明はしませんが、どれも表現をわかりやすくするために必要なルールです。しかし、16のルールをこのまますべて頭に入れるのは大変です。今回はこれを類型化していきます。

 まず、これらを意味のまとまりに沿って分類し、共通点となる要素をもとにグループに名前を付けます。なお、ここであげたものはあくまで一例であり、これのみが正しいというわけではありません。

  1. 情報を伝える気持ちをもつ。
     おもてなしの心を持て。
  2. 受け手の目線を考える。
     「受け手」のプロフィールを設定せよ。/「受け手」の熱意を見極めよ。
  3. 受け手に地図を与える。
     大前提の説明を忘れるな。/ まず全体地図を与え、その後、適宜、現在地を確認させよ。
  4. 情報の質に気を配る。
     複数解釈を許すな。/ 自然発想に逆らうな。
  5. 情報の量に気を配る。
     情報のサイズ制限を守れ。/ 欲張るな。場合によっては詳細を捨てよ。/ 具体的な情報を示せ。
  6. 情報の関係性に気を配る。
     情報に優先順位をつけよ。/ 情報を共通項でくくれ。/ 項目の相互関係を明示せよ。/ 視覚特性(見やすさ)を重視せよ。/ 情報の受信順序を明示せよ。
  7. 翻訳をする。
     翻訳は言葉ではなく意味を訳せ。

 このように分類できました。グループを作りたいが、この要素はどれとも合わなさそうだ……というものは、一つの要素で一つのグループとしてもかまいません。 

 

 では、これらをさらにグループにまとめ、階層構造を作っていきます。

 

 まず、「おもてなしの心を持つ」というのは、すべての原則の前提になっているものです。表現を工夫すること、そのためのルールを守ることも、まずは「情報を的確に伝達したい」という気持ちから始まるからです。よってこれは大原則として、特別に扱うことにします。0番目、というようにつけておきましょう。

 次に、受け手の目線と受け手に地図を与える、というのは、同じ「受け手」という共通項があります。さらに情報の「量」「質」「関係性」というカテゴリーも、ひとつにまとめることができます。

 余裕があれば、同一グループ内の「順番」にも気を配ってみましょう。例えば、情報の量については、まずは「サイズ制限を守る」という原則を提示し、そのうえで「具体的」かつ「欲張らない」という規則をつける、というように並べます。このようにして分類すると、このようになります。

 

0. おもてなしの心を持て。

  1. 受け手を考えろ.
    1. 受け手の立場を考えよ。
      1. 「受け手」のプロフィールを設定せよ。
      2. 「受け手」の熱意を見極めよ。
    2. 受け手に地図を与えよ。
      1. 大前提の説明を忘れるな。
      2. まず全体地図を与え、その後、適宜、現在地を確認させよ。
  2. 情報そのものに気をつけろ。
    1. 情報の質に気をつけろ。
      1. 複数解釈を許すな。
      2. 自然発想に逆らうな。
    2. 情報の量に気をつけろ。
      1. 情報のサイズ制限を守れ。
      2. 欲張るな。場合によっては詳細を捨てよ。
      3. 具体的な情報を示せ。
    3. 情報の関係性に気をつけろ。
      1. 情報に優先順位をつけよ。
      2. 情報を共通項でくくれ。
      3. 項目の相互関係を明示せよ。
      4. 視覚特性(見やすさ)を重視せよ。
      5. 情報の受信順序を明示せよ。
  3. 翻訳は言葉ではなく意味を訳せ。

 このようにすれば、ルールがずっと覚えやすくなり、また活かしやすくなるはずです。 

 

分類の実践(2) -英単語-

 『鉄壁』という単語帳があります。これは、単語をジャンルごとに「分類」し、まとまりを作ることで、より効率的に単語を覚える、といった単語帳です。

 例として、「発生・繁栄・衰退・消滅」というセクションを見てみましょう。このセクションでは、「発生→繁栄→衰退→消滅」という一連のプロセスに関係のある単語をグループとしてまとめ、順序だてて覚えることを目指します。

 まずは、「発生」に関係のあるemerge, arise, generateといった単語が並びます。続いて「繁栄」の意味を持つflourish, prosperなどの単語が登場し、「衰退」に関連するfade, declineといった単語が紹介されます。最後には、vanish, ruin, corruptといった「消滅」から連想される単語が記されています。このようにして、一連の流れの中で意味を関連させて覚えられるように、単語が配置されています。これも、分類のひとつとしてとらえることができます。 

 最終的には単語はつづり・発音を間違えずに覚えなければいけないため、分類の効果は限定的ではあるでしょう。しかしそれでも、分類により関連させて覚えることは、効率的な記憶に対して一定の効果を上げられるのではないでしょうか。また裏を返せば、一言一句正確に覚える必要のない「概念・主張の理解」には、分類がとくに効果を発揮するといえましょう。

 

読むときだけでなく、書くときにも

 ここで考えた分類・階層化の手順は、本を読んで情報を受信するときだけではなく、情報を発信するときにも使えます。情報を伝えるときには、体系化して、順序を付けたほうが、受け手にとってわかりやすいものとなります*1

 学術研究の世界では、「レビュー論文」というものが存在します。これは、一つのテーマから既存の研究をまとめ、要約してひとつの論文とするものです。ふつうの論文とは異なり、レビュー論文には著者の新しい研究成果は書かれません。しかし、それでもレビュー論文は、分野のなかで大きな価値を持ちます。

 学術研究におけるレビュー論文の重要性からわかるように、良質なまとめは、新規の結果を出すこととと同じだけの価値をもちます。分類によってバラバラの知識を階層化することは、情報を新規に生み出すのと同等の価値を生み出すといっても、過言ではありません。

 

まとめ

  • たくさんの概念を覚えるときは、分類・階層化を試す
  • 分類や階層化によって、より概念を理解できる
  • 分類は、情報を発信するときも大切

 読んでいただき、ありがとうございました。

 

文献紹介

今回記事内で取り上げた『「分かりやすい表現」の技術』『鉄壁』は、こちらから詳細を確認できます。

 

新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール

新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール

  • 作者:藤沢晃治
  • 発売日: 2020/01/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

改訂版 鉄緑会東大英単語熟語 鉄壁

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  • 発売日: 2020/03/09
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*1:これは上であげた「情報の関係性に気をつけよ。」というアドバイスにも即していますね。