ミカグラです。
突然ですが、みなさんは文章の「段落」を意識したことはありますか?実は、段落には文章を読解するために、またわかりやすい文章を書くために、大きな役割を果たしているのです。
本日は、文章における段落の役割について書いていきます。
段落を読んで構造を考える
一般的には、段落というと、「見栄えのために一字下げたまとまり」という印象が高いかもしれません。しかし、段落の果たす役割は、ただ単に文を見やすくするためだけではありません。その役割を見るために、まずは段落とは何か、どのような構造をしているのか、という「構造」を見ていくことにしましょう。
まず、wikipediaの「作文」という項目から、「日本語での作文」という項を引用します。ここから、段落の持つ役割を見ていきましょう。
小学校・中学校では、国語科の単元の一つとして「作文」があり、読書感想文、夏休みの日記、社会見学、合宿など体験的な行事の感想などさまざまなテーマで書く課題が与えられる。学級内のいじめや仲違いなどの事件の反省として書かされる場合もある。高等学校では、作文を含んだ「国語表現I」「国語表現II」という科目も設けられている。
日本には戦前からの生活綴方の伝統がある。現在でもその流れをくむ民間教育研究団体の「日本作文の会」が活動している。
その一方で、日本での作文教育は、国際的な基準から見て、非体系的で主観的とみなされることもある。たとえば、翻訳業界では、日本語文章の構成が恣意的で非論理的であることが多いため、日本語から他国語への翻訳はひときわ技能を要するとされている。また、日本語の教育については、言語学的な(比較言語的な)客観的立場、諸外国語の知識を踏まえていない研究や、日本語のみの理解にもとづいて行われている点を指摘されることもある。また日本語の文法についても、伝統的な「学校文法」(橋本進吉の文法論)では説明できない部分が非常に多く、言語教育、とりわけ文法教育が整えられていくことが必要とされている。
作文は、単なる学習の課題であるだけでなく、思考をまとめ、表現する活動としても重きを置かれている。欧米の大学では、「Writing」として教養課程で作文を実施しているところもある。日本の大学教育では、比較的軽視されている傾向がある。
また、体裁だけが整っており、内容が伴わない文章のことも作文と呼ばれる。例として、供述証書(検事調書)を「検察官の作文」などという。
段落部分を注意深く見てみましょう。
まず、段落一つ一つはテーマごとにまとまっていることがわかります。第一段落では、日本の学校教育における作文の解説です。続いて、第二段落からは、戦前日本における作文、現代日本での作文教育、作文のもう一つの意義、作文の別の意味、となっています。
次に、各段落の最初の文だけを抜き出して読んでみましょう。
「小学校・中学校では、国語科の単元の一つとして「作文」があり、読書感想文、夏休みの日記、社会見学、合宿など体験的な行事の感想などさまざまなテーマで書く課題が与えられる。
日本には戦前からの生活綴方の伝統がある。
その一方で、日本での作文教育は、国際的な基準から見て、非体系的で主観的とみなされることもある。
作文は、単なる学習の課題であるだけでなく、思考をまとめ、表現する活動としても重きを置かれている。
また、体裁だけが整っており、内容が伴わない文章のことも作文と呼ばれる。」
最初の文だけを抜き出しても、文章全体の流れを大まかにつかむことができます。こうしたように、各段落には目の付きやすい位置に、段落の要点を示す文章があることがわかります。
このように、一つの段落には、
- 原則ひとつのテーマがある
- 段落の目立つ場所に、テーマを端的に示す文がある
という特徴があることがわかります。
こうした段落の作り方は、文章を書くときにも利用することができます。
段落論の応用
一段落に一主題
段落を作るときにまず意識すべきことは、「一つの段落に一つの主題」という規則です。一つの段落は、必ず一つだけの主題を含むようにします。すなわち、段落ごとのまとめを、箇条書き一つでできるように書く、ということです。
一つの段落に、2つ以上の大きな主題が入っているのなら、主題の数に合わせて段落を分けます。あるいは、言いたいことがあいまいだとか、文章全体とは関係なさそうだな、という段落があれば、バッサリと切ってしまいます。
主題文を目立つ位置に置く
ひとつの段落ではにはひとつの主題、という原則が守られているとします。そのとき、段落の主張を端的に表せる文があれば、読者は意味をつかみやすくなります。これを最初か最後という目立つ位置に置きます。これを「主題文」と呼ぶことにしましょう。主題文を最初か最後に置くことの利点は、読む側が、段落の言いたいことを一目つかめるようにするためです。
主題文以外の文(展開)は、主題文の根拠になるように、主題文の主張を支えるように置きましょう。例えば、主張の根拠になる自分の経験、あるいは客観的なデータ、また推論による証明がそれにあたります。
段落の構成例を3つ紹介します。
最もポピュラーなのは、「まず主張を示して、そのあと理由を述べる」という構成。第一文に主題文を置き、それを根拠で補強するという構成になります。前述の例では、「その一方で~」の段落がこれにあたります。この形式では、先に結論を示しますから、読者にとっては読みやすくなります。自らの体験や統計データなどを根拠に主張を示したいときには、このやり方が有効です。
二つ目は、「原因を示して、そこから結論を導く」の形。このとき、言いたい主張は末尾に置かれることになります。これが有効になるのは、いわゆる「演繹的な推論を行う場合」です。例えば、「Aが事実としてある。AならばBである。BならばCである。だから、結論としてCが言える。」といった論調のものがこれです*1。末尾の文は頭の文ほどは目立ちませんが、わかりやすい位置に結論を持ってくるという意味では、よい手法です。
最後のパターンは「疑問の提示→解答」です。段落の頭に疑問文を置いて、末尾にその解答を書く、というものです。はじめに置かれた疑問を解決するために議論が進んでいき、最後に結論を出す、という風に段落が進むため、最も伝えたい主張は段落の末尾に置かれます。疑問文のみで一段落とし、その解答を次の段落で示す、という書き方もあります。
接続語を活用する
上で見た段落の特徴に加えて、段落同士の関係をつなぐ接続語にも触れておきます。
段落と段落をつなぐには、接続語が有効です。段落の先頭には、効果的に接続語を使いましょう。接続語は文と文をつなぐ言葉、ととらえられがちですが、その役割はそれだけではありません。
次の文を見てみましょう。
電子辞書は、調べたい単語を入力するだけで検索できるため、検索にかかる時間が短い。また、紙辞書に比べて軽いため持ち運びが手軽だという利点もある。一方で、紙辞書には一目で多くの用例を調べられる、という利点がある。加えて、電子辞書よりも安価であるという長所も見逃せない。
この文を4つの要素に分解して考えてみます。
- 電子辞書は検索にかかる時間が短い。
- 電子辞書は持ち運びが手軽だ。
- 紙辞書は一目で多くの用例を調べられる。
- 紙辞書は電子辞書より安価である。
すると、この文章を読んだ人は、この4つの要素を字面通り順番にではなく、おおよそ
(1 and 2) vs (3 and 4)
というように、枠組みを伴って理解しているはずです。左から右に、上から下にしか言葉が並んでいない文章に、このような「構造」を持たせられるのは、文章中の「また」「一方で」「加えて」といった接続語の働きがあればこそです。
このように、接続語は文章の構造を浮かび上がらせる、構造を明確にするという機能を持ちます。文のつなぎと同じように、段落のつなぎにも接続語を効果的に使うことによって、読者が文の構造をつかみやすくなります。
よく使う接続語をいくつか紹介します。
- 順接: 「だから」「よって」「したがって」など。前の段落を受けて、推論の流れを繋げます。
- 逆接: 「しかし」「だが」など。前の段落の内容を受けますが、そこから予想できることとは違ったことを切り出すときに使います。逆接の接続語は「意外性」を生む働きもあるため、この後の内容は読者に注目されます。
- 要約: 「つまり」「すなわち」など。それまでの内容を総括して述べるときに使います。章・節の終わりの段落に「つまり」から始まる段落で内容をまとめる、というように使うことが多いです。
- 例示: 「たとえば」。ある主張に例を出すときに使います。「たとえば」で始まる段落があると、読者はその前に置かれた主張をより理解するためにその段落を読みます。読者がその概念をよく知っている場合には、「たとえば」で始まる段落は注意深く読まず流し読みする、という読み方も選択できます。
- 列挙: 「まず」「次に」「最後に」など。複数のことを同時にあげたいときに用います。何かの順番ではなく、特にそこで上げた主張がすべて「同格である」ということを示したいときに有効です。ブログを書く場合には、列挙の接続語の代わりとして、箇条書きを用いることもよくあります。
- 転換: 「では」「ところで」など。文章中で話題をずらすときに用います。自分は、「では」の後ろに疑問文を続け、新しい論点を切り出すという手法をよく使います。
まとめ
文章を書くときには、段落に気を配ることが大事です。このとき、
- ひとつの段落に一つの主張
- 主題文を目立つところに置く
- 段落同士を接続語でつなぐ
というポイントが参考になるでしょう。
お読みいただきありがとうございました。
参考文献
文章における段落の重要性を説いた本として、
沢田昭夫『論文のレトリック』
があります。また、接続語の記述については、
石黒圭『文章は接続詞で決まる』
を参考にしました。
*1:数学における証明を読んだことがある方は、それが一番わかりやすいと思います。