【緊急】二次創作の『呪い』を、解きに来ました。

 ミカグラです。

 今回は緊急と銘打って文章を書かせていただきます。普段は文に日にちを置いて推敲をする自分ですが、今回は速度を優先して記事を書きます。お許しください。

 

 今回行うのは、「ファン活動としての二次創作を許容しなければならない空気感と文化を破壊したい」という記事についての意見表明です。なんと記事を書いている間に元記事が消えていました。は?

 

anond.hatelabo.jp

 

 この記事には、様々な意見が含まれています。これについて反論できる点、あるいは擁護できる点はたくさんありますが、それと同じように様々な「感想」が含まれています。そして、意見と感想が織り交ぜられた文章が、「呪い」を生み出しています。二次創作を行う人に対しての、

「貴方が二次創作を書いている作品の原作者も、そう思っているかもよ? 二次創作、嫌かもよ?」 

 という気持ちを植え付ける呪いです。

 もう元記事は消えてしまいました。しかし、文章を読んだという記憶を消すことはできません。記事が消えたいまでも、この「呪い」に苛まれている人がいます。そこで、今日私は、まず文章の論説を読解し、そしてこの呪いを受けている人に対して、それを解く試みをしていきます。

 読んでいただければ幸いです。

 

 

 

まずは本文を読解しよう

 まずは本文中の主張を、「事実」「意見」「感想」の3つに大別します。

下準備

 とはいえ、今この文章を書いている私と、この文章を読んでいる読者の間に、用語の扱い方で食い違いがあってはいけません。そこで、少々面倒ではありますが、今一度これらの区別をはっきりさせてください。

  • 事実: 実際に起こっていること。客観的に検証が可能。
  • 意見: 事実をもとにして組み立てられた考えで、事実によって支持・反論ができるもの。
  • 感想: 事実に対しての考えで、客観的な支持・反論ができないもの。

  • エナジードリンクには、通常の飲料よりも多くのカフェインが含まれている」: 事実。エナジードリンクとほかの飲み物との単位量当たりのカフェインを測ることで検証が可能。
  • エナジードリンクを飲んではいけない」: 意見。エナジードリンクを飲むことでの危険性によって根拠づけが可能で、またエナジードリンクを飲むことによるメリットを上げれば反論が可能。
  • エナジードリンクはおいしい」: 感想。いかなる客観的な事実によっても、この意見を表明した人の「おいしい」という考えに反論することはできない(何をおいしいと感じるかは個人の感覚に任されているから。)

 

本文読解

 これを例にして、本文の中にある、事実、意見、感想を書いていきましょう*1

 

 まず書き出しから見ていきましょう。

二次創作が嫌いだ。

 冒頭から力強い文ですね。これは筆者個人の感想に分類されます。嫌いという感情を客観的に論じることは不可能ですからね。 

私はクリエイターだ。漫画家だ。少なくとも食えている。

 これは、筆者が自らのことを書いた事実として考えることができます。勘の鋭い読者は、「匿名の記事なのに、筆者がそうであると断定できるんだ?」と思うかもしれません。これについては後で述べます。

今、日本で創作を行っている個人クリエイターは、二次創作活動を認めることを強制されている。

 これは、事実とは言えませんが、意見としてとらえることができるでしょう。これらは、具体的な事実を集めることで立証、あるいは反証することが可能です。ちなみにその次にある「それが、すごく嫌だ。」は、意見ではなく筆者個人の感想です。

 

 このあとの「『何様だ』って思うだろう。」以降の段落では様々に例が挙げられていますが、これも「自分の作品で二次創作をされるのがいやだ」という感想の繰り返しです。

ものすごく絵もネームも上手くて、私も尊敬していて、誰もが知っているような作品を描いていた同業の先生を知っている。

その先生には今、仕事がない。

 これ以降に続く一連の出来事は事実に振り分けられます。この事実を受けて、「だから私は、二次創作をやめてくれと、ファンに言えない。」から始まる段落では、

「二次創作に対して何かを言わない事が正解」になってしまっている。

という意見が表明されています。作家の間にこうした空気があるのかどうかは、先の段落で書かれた「ある大御所漫画家」の例という客観的事実によって根拠づけされ、またさらなる事実によって支持・反論が可能です。

 

 次の段落では、

「貴方が二次創作を書いている作品の原作者も、そう思っているかもよ? 二次創作、嫌かもよ?」

という傷を残したくて、こんな文を書いた。

という文があります。これは難しいところですが、「作品の原作者は二次創作が嫌いかもしれない」という文を、ここでは意見ととらえておきましょう。

 

最終段落には、「論拠」として

論拠をわかりやすく言うと

著作権を守ってください

・実質的に個人の作家が二次創作を嫌と言えない、もしくは言いにくい空気感を変えていきたいです

ということだけだ。

とあります。おそらくこの文章の書き手は「論拠」という言葉を「要旨」という意味で使っていると考えられます。本来「論拠」という言葉は、ある意見の根拠になる事実のことを言いますから、これは明らかな誤用です。このような文章の根幹を揺るがす致命的なミスには気を付けたいものです。

 

これらはそれぞれ、

  • 著作権を守るべき」は意見(それも、極めて真に近い意見)
  • 「~空気感を変えていきたい」は感想

として振り分けられます。しかしよく考えると、著作権を守るべきという文言はそれまで一言も述べられていなかったので、本文の要旨として扱うのも不自然な気がします。結局どんな言葉が適切だったのでしょうか。

 

ということで、この文章のエッセンスをまとめると、

  • 筆者がそこそこ売れているクリエイターであるという事実がある
  • 筆者は二次創作が嫌いだという感想を持っている
  • ある大御所漫画家には仕事がないという事実を根拠として、いまの世界には、原作者が二次創作を認めなければいけないという意見がある

という前提から、

  • 原作者は二次創作が嫌いかもしれないという意見
  • 原作者が二次創作を認めなければいけないという空気感を変えたいという感想
  • 著作権を守るべきという意見

が導き出されています。

 

これが、私の読み取った文章の大筋です。

 

本筋からは逸れますが、文中にある

ガイドラインをわかりやすく作って、「こういうのはOK」「こういうのはNG」とファンの方たちに説明するだとか、

編集さんに企業としてそれとなく動いてもらうだとか、そういうことができない。

という記述は、間違った事実、つまり虚偽という区分に当てはまります。この記述が間違っていることを証明するために、二次創作についてのガイドラインを示した文章を一つ持ってくればよいです。

 例として、今流行りのゲーム「原神」には、二次創作ガイドラインが設定されています。制作陣がキャラクターのデザインやそのストーリーを考えたという点では、本文で述べられていた漫画のキャラクターと同一視できるでしょう。

 気になる方はこちらからどうぞ。

 

corp.mihoyo.co.jp

 

呪いを解く

 文章の読解が終わったところで、「呪いを解く」という作業に入ります。はじめに断言しますが、この「呪い」には大きな欠陥があります。そこを突き崩すことで、私はこの呪いの力を少しでも弱めていきたいと考えています。

 最初に書いておきますが、これは今まで上げたすべての事実を検証し、すべての意見を検証する、という作業ではありません。あくまでこの文章がもつ「呪い」を解くために必要な部分について、私なりの意見を述べるだけです。

 

匿名のせいで事実が揺らぐ

 この文章には大きな欠陥があります。それは「匿名で書かれている」ということです。

 匿名で文章を書くことは、必ずしも悪ではないと考えています。深くは論じませんが、匿名で意見を発表することが致し方ない場面はありますし、また誰が発言したかによって価値が大きくは変わらない文章もいくらでもあります。

 しかしこの文章の場合には、匿名で書くのはよくありませんでした。なぜなら、誰が書いたかわからないために、冒頭の「私はクリエイターだ。漫画家だ。少なくとも食えている。」という事実を、事実として扱うことが難しくなってしまうからです。もしここが嘘であったら、この文章の説得力はガクっと落ちます。「いまの世界には、原作者が二次創作を認めなければいけないという意見がある」というのは間違っているかもしれません。「ある大御所漫画家」の話も、でっちあげの嘘っぱちかもしれません。少なくとも我々には、それを検証する手段がありません。

 もちろん、筆者が本物のクリエイターである可能性は否定できません。どころか、その確率はそこそこ高いと思います。「ある大御所漫画家」の話はリアリティがあるし、なによりクリエイターでない人がこんなに熱量のある長文をクリエイターになり切って書く、という状況は、同じ字書きとして私には想像できません。しかしながら、「筆者がクリエイターである」ということを、事実として検証することはできません。

 

それってあなたの感想ですよね?

 上にあげた中で「二次創作が嫌いだ」というのは、根拠のないただの個人の感想です。二次創作が嫌いだ、二次創作が許容される空気が嫌いだ、というのは、つまるところ「それってあなたの感想ですよね?」ということでしかありません。

 さらに、これは「一人のクリエイターによる感想」ではなく、「クリエイターかもしれないどこかのだれか」の感想である可能性があります。こうなると、訴求力はだいぶ弱くなります。だから、二次創作が嫌いだという「誰かもわからないたった一人」のために、あなたが二次創作に対して恐怖し、心を病む必要はまったくありません。

 

自分の感想を一般的意見にしない

 以上を踏まえて、「呪い」をもう一度見ていきましょう。

「貴方が二次創作を書いている作品の原作者も、そう思っているかもよ? 二次創作、嫌かもよ?」

 この意見の論拠をもういちど見返してみると、

 

クリエイターである「かもしれない」筆者が、二次創作が嫌いだ

 

というものになります。もうお気づきの読者もいるでしょうが、意見を展開する論拠としてはあまりにも弱すぎます。

 この文章では、「ある一人のクリエイターが二次創作が嫌い」という一人の感想から、「少なくないクリエイターが二次創作を嫌っていて、あなたが二次創作をしている作品の原作者もそうかもしれない」という主張を展開しています。しかし、個人の感想から一般論を展開することは、他人を説得する論理展開としては相当無理があります。実際に「知名度のある作家」からアンケートを取ってみて、これだけの割合の人が二次創作を嫌っています、そしてその中にはあの有名な○○さんも含まれています、といった「事実」をそろえる必要はあるでしょう。

 加えて、繰り返しになりますが、「筆者がクリエイターである」という事実すらもう怪しいわけです。匿名で記事を書かなければ、少なくともこの点については揺らがなかったのですが。

 

 まとめると、

 

  • まず筆者がクリエイターであることが正しいとは限らない
  • 筆者が二次創作が嫌いなことはあくまで個人の感想
  • その2つから出てくる意見はあまりに説得力に欠ける

 

ということになります。断言すれば、この呪いに大した力はありません。

 

じゃあ、どうすればいいの?

 まず、二次創作にビビることをやめてください。上で示した通り、あの文章に埋め込まれた呪いは強くありません。あなたが二次創作をやめる理由にはなりません。

 そのうえで、かろうじてこの文章を通して我々が反省できることがあるとすれば、それはこの機会に原作者さんの意向を確認することでしょう。二次創作に対して、なにかしらの意向を発言しているかもしれません。事実、今回の流行*2を契機に、様々なコンテンツの制作者さんが、自身の二次創作に対する見解を表明しています。原作者やコンテンツの制作陣が嫌といったことは、やらないようにしましょう。ガイドラインがあるならそれを確認しましょう。

 

さいごに

 僕は「二次創作」というものについては特にどうとも思っていません。少なくとも、二次創作そのものが「尊い」とは微塵も思いません。二次創作が好きか嫌いかは個人の思想です。二次創作によって直接の被害を被る原作者が、自身の作品に言及する場合を除いては、その思想に介入することはできないのではないか、と私は考えています。

 今回話題になった文章では、法律に訴えるではなく、自身への風評被害を恐れて、匿名という安全な立場から、貧弱な根拠と杜撰な論説で、人を傷つけ、他人の良心を利用して思想に介入するという卑劣極まりない行為をしています。この行為は一人の物書きとして断じて許せないと、私は、個人の感想として、そう思ったため、筆を執った次第です。

 

 余談ですが、私は好きな漫画はいくらかありますが、私が漫画家の中でこの人はすごい、尊敬できると思ったのは松井優征ただ一人です。そして、松井さんはこのような汚いやり方で自身のファンを傷つけることはしないだろう、また自分の意見が炎上したからといって簡単に撤回するような人ではないだろうという強い確信があります。正直この文章を書いた人が誰であろうが、そしてどうなろうが、私の知ったことではありません。

*1:もっとも今は読解する本文が消えています。暇な方は適当に検索していただければ見つかります。

*2:炎上?