【音ゲー】BEMANI SYMPHONY CONCERT 2022 夜の部

これ以上書いていると朝がきてしまうので、本当に書きたかったことだけ。

 

 

 

 

 

OutPhase というユニットがある。代表曲は quasar。2022年に稼働する IIDX 29 CastHour に至るまで、DP皆伝の課題曲として挑戦者に立ちはだかり続ける quasar といえば、 IIDX をプレイしていて知らない者はいない。

 

彼らの作品に、PENDUAL SP二級の課題曲であった sync という楽曲がある*1。5th style 以降、今なお IIDX 最高峰に位置するトランスである。

今の僕にとって、そしてこれを読んでいるほとんどの読者にとっては、SP二級は取るに足らない難易度である。しかし、高校時代は近くにゲームセンターがなく、街中に出た時についでに触るくらいだったから、SP二級は十分に高い壁だった。なかでも sync は、難解なリズムと押しづらい配置で当時のSP三級を大いに苦しめた。

と同時に、sync という曲は強く僕をひきつけた。PENDUAL が稼働していたころの音ゲーは、そのときには音ゲーといえばハードコアと言わんばかりに、ハードコアにあふれていた*2。だから sync という楽曲は新鮮だった。毎日毎日ずっと聴き続けていた。

SP二級にはそうこうしてるうちに受かった。

 

それが僕と OutPhase の出会いである。

 

 

 

 

 

2022年6月12日、BEMANI SYMPHONY CONCERT 2022 夜の部に行った。曲目が全部知ってる曲ばかりだったというのと、人生で一度は「クラシックコンサート」というものに行ってみたい、というのが主な理由だ。

チケット代は10,000円ほどした。S席ということで高いのかと思っていたが、きょう当日券を確認したら一番安いB席でも8,000円はしていた。世の中には一番程度の悪い席でさえ10,000円を優に超すようなコンサートもあるので、それを考えれば良心的な価格ではある。ただ音ゲーのファンイベントとして考えればかなり高額なのは間違いない。HARDCORE TANO*C の主催するクラブイベントなら、チケット代はB席の半分にも満たない。

そのチケット代もあってか、会場にいる聴衆の年齢層は高かった。かなり「大人」な空間だった。もしかして僕が一番会場で年下なのではないかと、そんな気さえする程度だった。

ついでに、ドレスコードはないとのことだったが、皆が整った服を着ていたのも印象深い。特に女性の着ているドレスはどれもこれもしがない大学院生には高貴なものにうつった。これが余計に年齢の差を感じた一因かもしれない。

 

そして公演が始まった。

 

ピアノとカホンのみによる fly far bounce とか、今回の歌唱を担当した霜月はるか・常盤ゆう・Mayumi Morinaga・NU-KO・PON による撫子ロック*3の合唱とか、ワクマニノフの新曲とかいろいろあったが、ちょっとこれは書ききれそうにない。

 

一つだけ、ペンライトの話をさせてほしい。僕は最初ペンライトの存在に懐疑的だった。クラシックコンサートにペンライトって必要なのか?

ただ、ペンライトの協調性はすさまじかった。サヨナラ・ヘヴンでのペンライトは、サビ前だけはしっかり三連符のリズムで動いていた。宇宙戦争PPPH もそうだった。Fly Above では全員がペンライトをピンクに染めていた。これは Fly Above の初出バージョンである IIDX 16 EMPRESS のイメージカラーに由来する。全部、なんの打ち合わせもないのに、勝手に揃っていた。

そして、あれだけきれいに揃っていたペンライトが、最後に流れた FLOWER では「赤」に光るものと、「青」に光るものがあった。最後まで一色に揃うことはなかった。このときは深く、この会場がペンライトで埋め尽くされていることに感謝した。

 

 

 

OutPhase の片割れ、 dj TAKA がステージに立ったのは、客席が赤と青に分かれる少し前の話だ。彼の代表曲である冥が演奏され、拍手喝采のままステージは終了した。あまりにも拍手が鳴りやまないので、これをアンコールの合図ととらえた dj TAKA は続いてメドレーを流し始めた。

メドレーは天空の夜明けから始まり、そして OutPhase の楽曲、 quasar へと移行する。そのとき、真っ黒のバイオリンを片手に、一人の男性がステージに現れた。

 

TaQ。もう一人の OutPhase である。

 

ひょうひょうとバイオリンを弾く TaQ は、客席へその顔を見せると、dj TAKA のいる DJ ステージへと駆け上がり、背中合わせに立ってみせた。二人、客席からでもわかる喜びに満ちた表情を見せている。

 

そこにはかつて、僕が苦しめられてきたSP二級があった。

 

 

 

 

 

 

もともと公演が終わった後にブログに感想を書こうということは決めていた。ただ当日の夜にこうして急いで筆を走らせることになるとは思っていなかった。そして書くに値する場面はいろいろあったはずなのに、僕の書きたいトピックは「OutPhase がそろい踏みした瞬間」の一点に絞られていた。

 

 

なぜ?

 

 

OutPhase の楽曲提供は 9th style で途絶え、次作では TaQIIDX シリーズの卒業を発表した。dj TAKA はその後も IIDX シリーズ、そして BEMANI シリーズに楽曲を書き続けた。彼は BEMANI シリーズの様々な音ゲーにかかわり、BEMANI シリーズは数々のコンポーザーを生み出した。いま "BEMANI Sound Team" と呼ばれている集団である。

一方、IIDX を離れた TaQ はクラシック方面で独自の音楽活動を展開した。そして2011年には、録音専門のオーケストラを設立した。本日のコンサートで昼夜4時間にもわたる演奏をやってのけた gaQdan である。

 

 

この BEMANI SYMPHONY CONCERT 2022 という舞台は、一方で BEMANI の歴史を背負い、自らの音楽を実現した dj TAKA、 一方で BEMANI から離れ、自らの音楽を実現した TaQ、この OutPhase が重ねてきた互いの歴史の顔合わせだったのだと思う。そしてわれわれはその立会人である。

こう考えれば全部に納得がいく。ドレスコードがなくても良い服を身にまとうというのは、 BEMANI とクラシックという2つの重みがそうさせている。そして、コンポーザーたちがそうであるように、聴衆もまた BEMANI をよく理解しているから、ペンライトは合図がなくても揃う。

こんなのでおこがましいかもしれないが、僕も自分の耳で、指で、腕で、足で、 BEMANI の歴史を追ってきた一人だ。dj TAKA の創り上げた BEMANI の音楽が、TaQ が創り上げた楽団の手で現れる。互いのすべてがぶつかりあったあの瞬間が、たまらなかった。

 

 

音楽は刹那的だとよく言う。そのせいか、ついさっき聞いたはずの、オーケストラとシンセが混合した sync の音色はもう頭から消えかかっている。ただ、 OutPhase の二人が、ともに40歳をすぎ、「おじさん」と呼ばれる年となった二人が、まるで少年のような顔で二人背中合わせで立っていた、あの絵は当分忘れられる気がしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの作品に、PENDUAL SP二級の課題曲であった sync という楽曲がある。5th style 以降、今なお IIDX 最高峰に位置するトランスである。 

*1:CastHour の二級にはもう sync の文字はない。

*2:なんなら僕は今でもハードコアが大好きだ

*3:曲名は『凛として咲く花のごとく』。後輩との会話で「いまどき『撫子ロック』で伝わるのってガチの老人だよな~」と笑っていたのを思い出してこう書いてしまった。