ミカグラです。
今日のテーマは「ブルーバックスの表紙がダサい」です。いやマジで。
ブルーバックスって何
ブルーバックスは、講談社が刊行している新書シリーズです。特に自然科学の話題にスポットをあてて、専門外の人々に広く読まれることを目指しています。
で、今回話題にしたいのがその装丁。表紙や背表紙などの表面デザイン、エクステリアといっていってもよいでしょう。私の手元にあるブルーバックスの装丁は、どれも「ダサい」のです。
すぐれた装丁を見てみよう
ダサい装丁を見る前に、まずは皆様に「知的でカッコイイ」装丁を見ていただくことにしましょう。今回は、新書の老舗である中公新書・岩波新書の2つをご紹介。
中公新書
まずは中公新書の装丁。本棚にあった『言語の脳科学』を見てみましょう。
う~ん、やはり何度見ても最高。
まずは背景。白地表紙の上部に位置し、メインを飾る色は深緑。気品がありながら古さを感じさせない、優れた色のチョイスです。表紙中央にたたずむ金の印も画面を引き締めます。
次に注目するのは字の配置です。題字・著者名は細めでシャープな明朝体。中央に構えた題字は、ゆとりある余白(余緑?)を残して、大人の雰囲気を演出しています。サブタイトル・著者名も、題字と端をそろえて、きれいに配置されています。下側の部分には、黒文字で「中公新書」、さらにナンバーが中央揃えで小さくあるのみ。
本の表紙にあるべき必要十分な要素を、必要最小限の装飾で整然と配置。余計なものは一切排した引き締まったデザイン。持っているだけでも、知識人の仲間入りができてしまう、そんな印象を抱かせます。持ち歩いても本棚に並べても「カッコイイ」装丁第一位です。
岩波新書
これもまた、シンプルで美しいデザイン。
まずは背景。中公新書とは対照的に、こちらでは鮮やかな赤色が用いられています。しかし下品さは一切なく、波をうった赤の四角はむしろ華やかな気品すら感じさせます。右上にある「風の神」のデザインも特徴的です。
題字は縦書きで、こちらはすこし柔らかな明朝体。赤地に黒の印刷は堂々とした印象を与えます。サブタイトルはタイトルのすぐ下、著者名は上揃えで、非常に整っています。中公新書と同様、白地の部分に「岩波新書」、ナンバーが配置されています。
こちらもまた、最低限の装飾で、載せるべき情報のみを明瞭に示したシンプルで引き締まったデザイン。現代的な雰囲気をまとう中公新書に比べ、こちらは古風な装いで、岩波の歴史を漂わせています。これもまた知識人が持つにふさわしい、良いデザインです。
ブルーバックスの装丁を見てみよう
すばらしい装丁を味わっていただいたところで、ブルーバックスの装丁を見てみましょう。引用するのは『「分かりやすい表現」の技術』です。ブルーバックスの多くの本と同じように、その内容は十分に読むに値することを断っておきます。
あのさぁ……
まずは配色です。そのベージュかなんかをベースカラーにしようって言ったやつ誰だよ。ちくま新書のデザイン見てみなよ。あれは白地にベージュだから締まりがあるの。ベージュベースに色乗せたらボケるに決まってるだろ。
あとはこのサルはなんなんだよ。数学の教科書だってもっときれいな幾何学図形載せてるぞ。新書の表紙において最も大事な情報は本の題名ですよ。そのくせにこのようわからん絵が紙面の半分を割いて主張してくるのはハッキリ言って病気だぞ。一刻も早くこのクソデカ謎ピクチャーから脱却しろ。おたくの講談社現代新書は脱却できたんだからブルーバックスでできないわけないだろ!!!!!
つぎに字の配列。
まず題字がでけえよ。読む層みんな老眼だと思ってバカにしてんのか?しかも字間も狭いし。左右の余白もないし。密ですよ密。これには小池百合子もおかんむりよ。余白も何もなくギッチギチなので、気品も何もあったものではありません。おそらく題字を目立たせたくてのことでしょうが、こんなに文字に無理をさせなくてもそのダッサい挿絵消せば解決しますよ。
あとこの題字、おそらく横幅に収まらないからという理由で横幅つぶしてるんですよね。「術」の文字を見ればわかりやすいでしょう。ふつう日本語のフォントは字形が正方形のブロックに収まるようにデザインされているのですが、タイトルの文字はとても正方形には見えません。字間を狭めて、横幅もつぶされて、狭いスペースに突っ込まれて。デザイナーには文字の泣き声が聞こえなかったのでしょうか。
サブタイトルと著者名も悲惨です。まずサブタイトルは小さいし。しかもなんでフォント変えたんだよ。表紙はデザイナーの実験施設じゃねえんだぞ。著者名に至ってはさらに悲惨です。例のごとく無駄に狭い字間はもちろんのこと、このクソ挿絵のせいで著者名が判別しにくいという、悔やみきれない事故が発生しています。僕が責任者だったら著者に菓子折りもって謝罪しに行きますね。
この表紙には現代的な雰囲気もなければ、歴史を感じさせる古めかしさもありません。あるとすれば、「雑」です。これで書名が『「分かりやすい表現」の技術』て。(笑)
装丁を変える
本当にひどいなあと思ったので、ネット上にある無料ツールで新しく装丁を組んでみました。そんなことをしていたら新装版が出ていることを発見したので、それも取り上げてみました。
「新書メーカー」でつくってみよう
ネットの海を泳いでたら「新書メーカー」なるツール*1があったので、試しに中公新書のデザインならどうなるのか、出力してみました。書名・サブタイトル・著者名はそのまんま入力。
フォントや題字の揃え方などに突っ込みどころはありますが、洗練されてわかりやすくなりました。おそらく本家ならフォントや字間、配置もさらにきれいになり、もっと洗練されたデザインになるはずです。全く同じ内容で本棚に並べたくなるのはどちらかと言われたら、迷う余地はありませんね。
新装版と比べてみよう
新装版が出たらしい。
文響社から出版された新装版の装丁はこの通り。ベースの色には鮮やかな橙を採用して、締まった画面になりました。タイトル文字は相変わらず大きなまんまですが、文字が不当につぶれたり字間が不当に狭められたりすることなく並んでいます。
たしかに、新装版で気品にあふれたカッコいいデザインになったかといえば、必ずしもその通りとは言えません。しかし、必要な情報が真っ先に目に入るデザインにはなっているでしょう。この新装版と先ほどのデザイン、全く同じ内容で本棚に並べたくなるのはどちらかと言われたら、迷う余地はありませんね。
最新のブルーバックス
悪口だけ書いていても仕方がないので、ここで最新のブルーバックスの装丁を見ていきましょう。
お、意外とイカしてるんじゃない?
バックは白・黒といったモノトーンで、すっきりした画面になりました。挿絵はクソダサピクチャーから、モノの写真やシンプルな3Dモデルになり、「後景」に退きつつも知的な印象を増しています。
題字は本来の形である正方形を取り戻し、のびのびと表紙に座っています。彼らにも晴れの時代が来たようで、喜ばしい限りです(右下の本では相変わらず苦しめられていますが……)。フォント選択や文字サイズはまだまだ改善の余地がありそう。
総じてすっきり、上品な装丁になっています。特に「三体問題」は、必要な情報がしっかり目に入り、引き締まったよい装丁です。やや中高教科書っぽい、子供っぽい印象は否めませんが、それでも本棚に並べて恥ずかしくないデザインに仕上がっています。
やればできるじゃん。
ということで、ブルーバックスの装丁についてでした。
今回取り上げたものは目も当てられない表紙*2でしたが、ブルーバックスの最近の装丁はよくなってきており、サイエンスのもつ気品に見合うものになってきています。
ふだん何気なく手に取っている本でも、装丁ひとつでこんなにも印象がかわるんだなあ、ということを感じてもらえれば嬉しいです。
ありがとうございました。
紹介した本
本日紹介した本の一覧です。