ミカグラです。
作文技術の勉強をはじめて約一年、本棚にもそうした類の本がそこそこ並ぶようになりました。
そこで今回は、自分の本棚の整理・知識の整理もかねて、いままで読んだ中で特に有用・おすすめである本を紹介していきます。
迷ったらこの3つ
木下是雄『理科系の作文技術』『レポートの組み立て方』
『理科系の作文技術』は言わずと知れた、作文技術を説く名著。ですが、その後継として出版された『レポートの組み立て方』を知る人はあまりいないでしょう。こちらは『理科系の~』の記述の中でも、広くレポート・報告書を書く人に向けて役に立つ記述を抜き出し、再編集したものです。
これらの本は、なんといっても知的散文を書くための心構えが「体系的に」書かれていることに大きな特徴があります。秩序立てて書いてあるので、読みやすく、また頭に入りやすいというメリットがあります。
どちらか一冊で知的散文を書くための基礎が十分に身に付きます。あえてあげるとするなら、個人的には『理科系の~』を買うのがおすすめです。とくに、1章は知的散文を書くための重要な心構えが簡潔に書かれており、読む価値大です。
また『理科系の~』には、要点をマンガ形式で学べる『まんがでわかる 理科系の作文技術』もあります。本を読むのに慣れていない方は、まずこちらから手を付けるのも悪くないでしょう。
澤田昭夫『論文の書き方』『論文のレトリック』
次におすすめするのは、材料集めから脱稿まで研究論文の書き方を説いた『論文の書き方』と、とくに書く技術に焦点をあてた前書の補完本『論文のレトリック』の2つです。
『書き方』は、「論文を出すこと」を軸に、資料の集め方や論文を書く技術、論文や書籍の読み方、スピーチの技法など、研究活動にかかわるさまざまな技法を広く解説しています。これに対し『レトリック』は、「よい論文とはなにか」という問いをテーマに、「書く技術」に特化して、知的散文の作文技術=レトリックを指摘しています。
先に紹介した『理科系の作文技術』らと同様に、学術論文の書き方を通して広く一般的な作文技術を勉強するために最適です。
『理科系の~』『レポートの~』の2冊と違い、こちらは内容にほぼ被りがないので、2冊セットで買うのがオススメです。どちらか一冊、というなら、作文技術を重点的に学べる『レトリック』がいいでしょう。
中村明『文章作法入門』
『文章作法入門』は学術論文の視点からではなく、より一般的な文章作法についてまとめた本。
この本は、原稿用紙の使い方、文字の書き方にはじまり、ことば、文、段落、文章と対象を拡大し、体系的に論じています。知的散文にとどまらず、なにか漠然と「書きたい」、という人が文章を書くいろはを勉強するために最適の入門書です。
内容も網羅的・体系的で、さらにほかに比べ文章も平易で優しいため、今まであまり読む・書くといったことに触れていない「文章の初心者」には特におすすめの一冊。基礎の基礎から学べる教科書として使えます。
さらに勉強したい人へ
文章の論理を勉強する
説得力のある文章を書く上で不可欠なのが、論理です。ここでは、論理を勉強するうえで特に有用な書籍を2つ紹介します。
まずはずせないのが、野矢茂樹『新版 論理トレーニング』。論理学をベースに、文章を貫く様々な論理を解説した教科書です。著者は論理学に関連する本を数多く書いていますが、とりわけ作文に活かすならこれがお勧め。とくに演習問題が充実しており、実際に手を動かしながら論理を学べるというスグレモノ。全編読み通してなおかつ問題を解ききるのは大変ですが、確かな力を養うことができるはずです。
もう一つ、『論証のルールブック』も論理の勉強にオススメです。通読して正しい論証のルールを勉強するだけでなく、実際に自分の書いた文章と照らし合わせて正しさをチェックする、辞書のような役割も果たしてくれます。また、『論理トレーニング』が論理学に根差した論証を扱うのに対し、『ルールブック』は論理学では扱いきれない帰納法、相関関係などについても、効果的な助言を与えてくれます。
文章の「型」を勉強する
何事もゼロから始めるのはとても難しい。作文もまた同じで、文章上達の近道は、ある一定の「型」を身に着けることです。今回は「型」を学べる2つを紹介。
まずは、飯間浩明『伝わるシンプル文章術』。この本では、知的散文を書く上での型として、「問題→結論→理由」(筆者はこれを「クイズ文」と呼んでいます)を提示しています。この型を習得し実践できるようになることがこの本の目的です。
この本の構成は、なぜクイズ文で書くべきか、クイズ文の型とはなにか、クイズ文の型をどのように活用するか、の3章構成で非常にシンプル。さらに、クイズ文そのものも非常にシンプルな型で頭に入れやすいものです。文章の型を身に着けるうえで、はじめに読む本としておすすめです。
もうひとつは、樋口裕一『頭のいい人は「短く」伝える』です。こちらは、「問題提示→意見提示→展開→結論」という、4行の型を習得し、書く・読む・話すの3技能に活かすことを目標としています。この型は、先述した「問題→結論→理由」の発展形になっているといえるでしょう。問題点としては、「4行の型」を用いる必要性の根拠づけにやや難があり、読んでいて腑に落ちない点でしょう。
日本語を深く勉強する
よい文章を書くには、日本語の理解を高めることも大事です。日本語の知識を学べる2冊の本を紹介します。
最近読んでかなり良かったのは、大野晋『日本語練習帳』。日本語を扱ううえで大事な事項を、国文学を研究する著者の視点からまとめた本です。言葉をうまく活用し、よりよい文章を書くためのヒントが詰まっています。特に、第4章「文章の骨格」で紹介されている縮約の技法は、文章の本質を抜き出す読み・本質を伝えるための組み立てを行う書きの双方に役に立ちます。
少し変わったところでは、石黒圭『文章は接続詞で決まる』はいかがでしょう。こちらは、文章を支える「接続詞」に注目し、個々の接続詞について、その意味と使いどころを論じるといった構成になっています。接続詞はよい文章を形作る一要因ですが、これが詳細に解説された本はなかなかありません。その点で、この本は一読の価値ありです。
その他おすすめの本たち
藤沢晃治『「分かりやすい文章」の技術』は、文章作成に関するポイントを簡潔にまとめ、全部で18のルールにまとめています。これをそのまま覚えるのは大変ですが、最終章のチェックリストによっていつでも参照しやすい形になっているため、文章の推敲に便利です。個人的には、第2章「『分かりやすい文章』とはどんな文章か」はかなり読む価値があります。神経科学の知識を援用しつつ、「読み手にとってわかりやすい文章」とは何かを明快・簡潔に述べています。
分量は多いですが、池上彰『伝える力』『伝える力2』もよいでしょう。テレビでも有名な著者の記述は大変読みやすく、多くの「伝えるためのテクニック」を摂取できます。特に、「分からない人へものを伝える」という、ともすれば忘れがちな視点に対して多くのアドバイスがなされている点は注目に値します。
さらなる上達を目指したい方には、清水幾太郎『論文の書き方』、ハワード・S・ベッカー『論文の技法』をおすすめします。これらは今までとは違い、ポイントが体系的にまとめられ、順に吸収していく、といった構成の読みやすい本では決してありません*1。しかしながら、通読することで知的散文を書く技術、さらには精神をも育てることができるでしょう。特に、『論文の書き方』第6章「裸一貫で攻めていこう」、『論文の技法』第7章「それをドアから外に出す」は、書くことの意義について示唆を与える、価値のある部分です。
最後に一冊
どうしてもお勧めしたい本として、堺利彦『文章速達法』があります。
とくに読んでいただきたいのは第1章「大体の心得」。この章には、文章を書くものとして抑えておきたい心構えが過不足なく書かれています。他の章にも学ぶべき記述は多くありますが、この章はとりわけ、何度も読んでかみしめたい文章です。この本のもととなった本は大正4年に初版が刷られたということですが、今も続く文章の不易がここにあるように、私には思えます。
ということで、作文技術の参考書紹介でした。
なかなか外に出られないこのご時世、お家でゆっくりと読書をして文章力を磨く、というのも、良い過ごし方かもしれません。
ありがとうございました。
*1:とくに『論文の技法』は、訳の拙さによりより読みにくいといったことが指摘されています。