【作文論】わかりやすい文の書き方

こんばんは、ミカグラです。

 

 かねてより、わかりやすい文章を書くための方法を勉強しています。院試も終わってまとまった時間ができたので、その勉強内容をまとめてみたいと思い、ブログで記事を書くことにしました。今回はターゲットを「単文」に絞って、自分なりに気を付けているポイントをまとめました。

 この文章が、文章を書く方々の役に立てば幸いです。

 

 

 

1 文の構造を読み解く

 わかりやすく良い文を書くためには、文そのものの対する理解が不可欠です。ここでは、文の構造と文の役割という2つの観点から、文というものについて理解することにします。

1.1 文は主語と述語からできている

 はじめに、文を構成する要素について考えてみましょう。

 基本的な文は、「何がどうする」「何が何だ」「何がどんなだ」といったような形をしています。このうち、「何が」にあたる部分、つまり文の主役になっている要素を主語、「どうする」「何だ」「どんなだ」といった、動作や状態を表す部分を述語といいます。述語のうちの一部の言葉は、「何を」という目的語を伴う場合もあります。これらの主語、述語、また存在する場合は目的語が、文を構成する骨組み、いわば文の「核」といえます。

 例として、次のような文を考えます。

 

「むかしむかし、あるところに、一人のおじいさんがいました。」

 

 この文章は、次の5つの要素に分けることができます。すなわち、「むかしむかし」「あるところに」「一人の」「おじいさんが」「いました」の5つです。このうち、「おじいさんが」の部分が主語、「いました」の部分が述語にあたります。残りの3つの要素は、まとめて修飾語と呼ばれ、文の要素や文それ自体を詳しく説明する働きをします。

 もう一つ、目的語の登場する例文を考えます。

 

「その日私は、銀座の料理店でステーキを食べていた。」

 

 この文章では、「私は」が主語、「食べていた」が目的語、「ステーキを」が目的語にあたります。この文の骨組みは「私はステーキを食べていた」であり、「その日」は時間を、「銀座の料理店で」は場所を詳しく説明する要素であるということができます。

 

1.2 ひとつの文にはひとつの主張

 主語・述語を中心に構成された一つの文は、一つの主張を構成します。こうした主張を伝えることが、一つの文に課せられた役割です。文章は、こうした文に込められた主張か組み合わさることによって、より大きな主張を表現することができます。

 例文として、次の文章を考えてみましょう。これは俗に三段論法と呼ばれるものです。

 

「すべての人間は死ぬ。ソクラテスは人間である。ゆえに、ソクラテスは死ぬ。」

 

 この文章では、前2つの文章がそれぞれ1つずつ主張を持っており、その2つの主張を生かして、3つ目の文が展開されています。

 

 ここで確認した、「文章の核は主語と述語」「ひとつの文にひとつの主張」という2つの基本的な内容が、わかりやすい文を書くポイントを説明するうえで、重要な役割を果たすことになります。

 

2 主語と述語を対応させる

 先ほどの説明の通り、基本的な文は主語と述語から成り立っています。ですから、複雑な文においても、常に主語はなんだ、述語はなんだ、という意識を持って文を書きます。文の骨組みである主語と述語を抜き出したときに、意味が伝わるように書かなければなりません。木下是雄さんも、著書『理科系の作文技術』の中で、主語と述語の対応させることの重要性に言及しており、その中で主語と述語が正しく対応した文を「格の正しい文」と表現しています。

 ところが、伝わりづらい文章の中には、主語と述語がしっかりと対応していない文が多くみられます。この文は何を言いたいのか、という意識がしっかりしていないと、主語と述語がねじれた文を書いてしまいます。

 例文を見てみましょう。

 次の文は、主語と述語の対応が取れてない文章の一例です。


「私の考えは、消費税は増税すべきでないと思います。」

 

 この文章でも、筆者が言いたいことは伝わるでしょう。しかし、なんとなく違和感を覚える方が多いと思います。それは、この文章が「格の正しくない文」だからです。この文章の主語と述語だけを抜き出すと、「私の考えは、~思います。」となります。骨組みだけを抜き出すと、違和感がはっきりします。主語と述語をしっかり対応させるように直すなら、この文章は

 

「私の考えは、消費税は増税すべきでないというものです。」

「私は、消費税は増税すべきでないと考えます。」

 

と修正できます。

 ここで出した例は短く単純な文なので、すぐに違和感に気づけて修正できますが、長く複雑な文章ではそうはいきません。そのため、常に主語・述語という文の骨組みを意識しておくことが重要になります。

 

3 文は短く、簡潔に

3.1 修飾語をつけすぎない

 1章で、修飾語は文の要素を詳しく説明する要素である、という話をしました。言い換えると、修飾語は骨組みについた肉であるといえます。

 適度な肉付けは、主張を伝えるために重要です。しかし、人間が過度に贅肉をつけると肥満になって健康を害してしまうのと同様に、修飾語を過度に使って文章を長ったらしくしてしまうのはいただけません。なぜなら、過度に修飾語をつけると、文の中で伝えたい主張がボケてしまい、読み手にとってわかりにくい文章になってしまうからです。

 そのためによく言われているのが、「文は短く」というアドバイスです。簡潔で、しかも覚えやすい格言だけに、非常に役に立ちます。短すぎる文章ももちろんよくないですが、それでも読みやすさ、意味の掴みやすさの観点では、長すぎる文以上の悪文はありません。意識して短い文章を書きましょう。

 では一歩踏み込んで、実際にどれくらいの文字数がちょうどいいかを、「アリバイ」を例にとって考えてみましょう。

 警察に先日どこで何をしていたか、アリバイを聞かれる場面を想定してみます。アリバイを立証するためには、「犯行時刻に自分がどこで何をしていたか」が重要です。ならば、アリバイを証明するための文には、「自分が(主語)」「時刻」「場所」「どうした(述語)」という4つの要素が最低限必要になります。さらに、アリバイを立証してくれる他人がいる場合は、その存在を明示するべきでしょう。こうした要素をすべて盛り込んだ文の一例として、以下のような文が考えられます。

 

「私は、その日の19時から22時まで、職場の同僚と2人で、新宿の居酒屋でお酒を飲んでいました。」

 

これでばっちり、「私は犯行時刻に別の場所にいた」という主張を伴った文が完成し、アリバイが証明できました。

 この文章は、主語と述語が一つだけの文章としては多くの要素が盛り込まれた長い文章です。しかし、文の意味は単純明快でわかりやすいものだと思います。この文の字数を数えると、46文字となります。あくまで個人の体感ですが、私は、主語と述語が一つの文(単文)で、文字数が40文字を超えると少し長く感じ、60文字を超えるとかなり読みづらく感じます。

 

3.2 主語・述語は一文に一組

 長く読みづらい文が生まれるもう一つの理由として、一つの文に2つ以上の主語・述語の組が入っている可能性が考えられます。1章で確認したように、ひとつの主語・述語の組には、ひとつの主張がこめられています。文の中に二組以上の主語・述語がある場合、複数の主張を一つの文から読み取らなければならず、読み手が苦労してしまいます。

 以下の例文を考えてみましょう。

 

「欧米の国であるスイスには、ドイツ語、フランス語、イタリア語、そしてロマンシュ語という4つの公用語が存在するが、中でもロマンシュ語はほかの3つに比べ母語話者が少なく、スイス政府はロマンシュ語を保存する政策を進めている。」

 

この文章の字数は108文字で、一文のなかで主張もわかりにくい、長く読みづらい文章です。これは、「公用語が存在する」、「母語話者が少ない」、「スイス政府は進めている」という3つの主語・述語の組が存在することが原因です。こうした場合には、一つの文に主語・述語が一組ずつ存在するように文を書きかえることで、読みやすい文章になります

 

「欧米の国であるスイスには、4つの公用語が存在する。その4つとは、ドイツ語、フランス語、イタリア語、そしてロマンシュ語である。中でもロマンシュ語は、ほかの3つに比べ母語話者が少ない。そのため、スイス政府はロマンシュ語を保存する政策を進めている。」

 

 こうすることで、主張の輪郭がはっきりした、読みやすい文章になります。

 

4 適切な言葉を使う

 1章では、文を構成する要素について、主語、述語、修飾語などを説明しました。文を構成する要素は「言葉」です。ですから、わかりやすい文を書くには、わかりやすい言葉が不可欠です。

 

4.1 平易な言葉を使う

 当たり前ですが、簡単な単語を使うほうが、難解な単語を使うよりもより多くの人に主張が伝わるようになります。誤解の恐れがない場合には、できるだけ平易な単語、簡単な表現を用いるようにしましょう。

 たとえば、「所謂」という熟語があります。これで「いわゆる」と読みます。ところが、「いわゆる」という表現を知っている・聞いたことがある人は多くても、その漢字表記を知っている人は多くないでしょう。ともすれば、「いわゆる」を漢字で書けることを知っている人さえ、そう多くないかもしれません。こうしたことを考えると、漢字で「所謂」と表記することは、多くの人に伝わる文章のための言葉としてはいただけません。

 もちろん、簡単な語彙だけを使えばよいというものでもありません。例として、料理における「焼く」と「炙る」という二つの言葉を考えます。これらはどちらも、ともに食材に火を入れることを表す言葉ですが、それがもつニュアンスは違います。こうした場面では、自分の主張に応じて、適切に言葉を使い分けることが求められます。

 主張にあわせた適切な言葉を選ぶことは何よりも大事です。しかし、誤解のおそれのない範囲では、言葉はできるだけ平易な言葉を使うべきであるとも考えます。

 

4.2 定義を加える

 いくら平易な言葉を使うべきとはいえども、正確な主張のために、難解な言葉や専門用語を使わなければならないときがあるでしょう。こうした場合には、必ず言葉の説明、定義をすることが必要です。

 たとえば、数学の教科書では、新しい概念(高校数学では、三角関数、対数などがそれにあたるでしょう)が初めて登場する場合に、必ず「それは何か」ということが説明されます。これが定義です。数学はつねに、ある対象の定義、その性質の解明、重要な定理とその証明、というステップで、議論が展開されていきます。数学に限らず、こうした「言葉の定義→主張の展開」という流れは、わかりやすく誤解のない文章を書くために重要です。

 もう一つ、実際の文章を例に、文章における定義の重要性を見てみましょう。

 

「ビリヤードにおいて、スクラッチを犯したプレイヤーはファウルとなり、次の手番のプレイヤーは手球を好きな場所に置くことができる」

 

 上の文章は、一般的なビリヤードにおけるルールです。ビリヤードを少ししか知らない人がこの文章を読むことを考えます。このとき、「スクラッチ」「手球」といった単語がわからず、意味が汲み取れないことが予想されます。

 では、この説明の前に次のような定義があればどうでしょう。

 

「手球とは、キュー(ビリヤードで使う棒)で突くことができる白い球のことである。」

「スクラッチとは、手球をポケットに落としてしまうことである。」

 

この説明があれば、あまりビリヤードを知らない人でも理解ができると思います。

 

 以上、わかりやすい文を書くために意識していることをまとめました。主語と述語、一文に一主張、という2つの観点から、主語述語を対応させる、文を短く簡潔に書く、適切な言葉を使う、の3つのポイントを意識して文を書くことが、わかりやすい文を書くことにつながると考えます。

 読んでいただきありがとうございました。