【論説】おたくクン21歳、「老い」について考える。

こんにちは。ミカグラです。

 

 今回は表題の通り、「老い」とは何か、というテーマを、最近のオタク活動で感じた「アップデート」の観点から論じていこうと思います。

 

 

 

新コンテンツ「電音部」の始動

 去る6月28日、バンダイナムコエンターテインメントによるオンラインDJイベント、「ASOBINOTES ONLINE FES(以下AOF)」が開催されました。アイドルマスターのオタク、ボーカロイドのオタク、音ゲーのオタクなどなど、古今東西のオタクたちが配信を見ていたのは記憶に新しいところです。僕はアイドルマスターのオタクではなかったのですべてのトラックでぶち上がれるようなことはなかったのですが、TAKU INOUEさんが音楽ゲームで一番いい曲であるところの『夜明けまであと3秒』を流してくれたので、僕の中でのあのイベントの評価は100点満点中5000兆点でした。

www.youtube.com

 イベントの最後には、バンダイナムコによる新しいコンテンツ「電音部」の始動が告知されました。電子音楽が音楽文化の中心になった都市を舞台に、様々な地域を拠点とする女子高生たちが己のDJプレイを競い合う、という世界観となっています。

denonbu.jp

 その中でも、人気バーチャルYouTuberグループ・にじさんじから、シスター・クレア*1、健屋花那(すこや・かな)*2、星川サラ(ほしかわ・-)*3の3名が、声優として参加することが発表されたことが大きな話題となりました。この3人はAOFにもゲストとして参加しており、なるほどコンテンツに出演するからAOFでも大々的ににじさんじが取り上げられていたんだなと、妙な納得をしました。

 革新的だったのは、従来声優がその役割を担ってきたアニメキャラクターの声、というキャストを、VTuberという新たな存在が担っているという点です。僕は普段からVTuberに慣れ親しんでいたので、特別に大きな衝撃は受けなかったのですが、「VTuberが声優として活躍する」という新たな試みに、違和感を感じた人は少なくなかったのではないでしょうか。

 

価値観のアップデート

 こうした流れについて、Twitter上で興味深い発言がありました。それは、大槻ずん(@ohtsuki_zunko)さんによるこちらのツイートです*4:

 このツイートでは、我々が「時代にあわせた価値観のアップデート」をしなければならない、ということを主張しています。のちに、本人によりこの主張を深化させて論じたブログ記事が発表されました:

 

imas.hatenadiary.jp

 

 このブログでは、

  • 長寿コンテンツは、常に時代に合わせた変化を遂げている
  • コンテンツを長く追い続けるために、ファンには価値観のアップデートが求められている
  • 食わず嫌いせずにコンテンツを見てみよう
  • もし新ジャンルが受け入れられなくても、TAKU INOUEが俺たちのそばにいるから大丈夫

といった内容が論じられています。「旧来からのアイドルマスターのオタク」という立場から、VTuberという新ジャンルを取り込んだバンダイナムコを見て、オタク側の「価値観のアップデート」の必要性を論じた文章です。全体を通して論旨が明快で、適切な章立て・段落分けがなされた読みやすい文章で、大変感服しました。ぜひ一度読んでいただきたいと思います。

 そして僕が論じたいことは、この「価値観を絶えずアップデートする」という手段が、「老い」を避けるための方法である、ということです。すなわち、老いとはアップデートの失敗である、ということです。

 

老害」という言葉

 何かにつけて「老害」という言葉をよく聞きます。Googleで意味を調べてみると、

自分が老いたのに気づかず(気をとめず)、まわりの若手の活躍を妨げて生ずる害悪。

とあります。

 しかしながら、我々は高齢者なら誰にでも「老害」という言葉を使うわけではありません。例えば「おばあちゃんの知恵袋」といった、高齢者の知識に敬意を表した表現があります。一方で、我々は高齢者とは程遠い若い年代の人に向かっても、「老害」という言葉を使って非難することがあります。これらのことから、この言葉は、高齢者を一概に邪険にする態度を表現しているわけではないことがわかります。では、「老害」という言葉は、どのような人に対して使われるのでしょうか。

 妥当だと思われる定義は、「旧来の価値観にとらわれ、かたくなに自説を押し付ける」というものです。このような人は、組織や界隈の変化を停滞させ、たいていの場合にはその組織・界隈に悪影響を及ぼします。こうした人は、本人の年齢とは関係なく分布していますが、共通しているのは「古い価値観への固執」です。これは、「価値観のアップデートに失敗した人」という表現に一致します。

 つまり我々は、時代の変化に伴って生まれた新しい価値観を学ばず、古い価値観に固執する人のことを、「老害」と呼んで非難している、ということになります。

 

「美術館女子」批判

 美術館女子、という言葉が話題になりました。 

 美術館女子というのは、美術館連絡協議会と読売新聞オンラインが立ち上げた企画です。アイドルグループ・AKB48のチーム8*5に所属するメンバーが各地の美術館を訪れ、その写真を通して美術館の、アートの魅力を伝える、という内容「でした」。

 しかしながら、この企画は大きな批判にさらされ、瞬く間にインターネット上で炎上しました。主催側は企画の中止を発表し、公式サイト*6は閉鎖されています。

 今回注目したいのは企画の是非そのものではなく、その批判の内容です。一般的に「~女子」といった呼称は、本来男性が多かったコミュニティの中に女性が参入するときに用いられる言葉です。これは男女の役割を決めつける言葉*7として非難されており、この企画もその文脈により批判をされました。

 こうした批判の中で、「企画者側のおじさん目線」という言葉が使用されています。当然ながら、企画者が誰かというのは我々にとっては知る由もありませんから、企画者を「おじさん」と決めてかかるのはある種のレッテル張りとも言えます。「~女子」という安易なレッテル張りを諫める側が、安易なレッテル張りをしているのは滑稽な話ですが、本質はそこではありません。

 真に注目すべきは、「旧来の価値観で動く企画者を『おじさん』と呼んでいる」という現象です。これは、古い考え方に固執する人のことを、老いた人とみなす考え方によるものです。この一連の出来事においても、「老人=価値観のアップデートに失敗した人」という図式がありありと観察できます。

 

生物学的な「老い」

 そもそもの話として、生物が老いる、ということを考えてみましょう。

 生物を構成している細胞には当然寿命があります。ですから、放っておくと生物を構成する細胞の数はどんどん減ってしまいます。そうならないように、生物の細胞は絶えず分裂を繰り返しています。我々の身体は常に一定ではなく、古い細胞が死に、新しい細胞が生まれることによって維持されています。

 ところが、細胞が分裂できる回数には限界があります*8。この限界を迎えると細胞は分裂をやめ、生体の維持が困難になります。これが「老い」を説明する一つのメカニズムとされています。

 また、細胞分裂のメカニズムから、「がん」という病についても考えることができます。よく言われる「がん細胞」とよばれる細胞は、何らかの影響を受けて傷ついた細胞のことです。この傷つき変異した細胞が分裂によって増殖し、身体に影響を与えるのが、がんという病気です。

 これらは、先ほどから論じている「アップデート」の枠組みでとらえることができます。人間の寿命というのは細胞の「アップデートの限界」、がんは「アップデートの失敗」と解釈できます。こうして考えると、「老い=アップデートの失敗」という図式は、精神だけでなく身体の老いについても、妥当な解釈であると考えられます。

 

まとめ

 ここまで論じてきた通り、老いとはアップデートの失敗である、と考えることができます。。もちろんこれが「老い」を表現する唯一の方法ではないでしょうが、しかしこの「アップデートの失敗」という切り口は、「老い」の本質の一つであるとして問題ないでしょう。

 人間にはひとしく「死」が待ち受けている以上、生物としての老化に抗うことは、本質的には不可能でしょう。しかしながら、精神としての老い、ことオタクとしての老いは、サブカル世界に生まれる新しいジャンルの積極的な吸収で防げるのではないかと考えています。人間の精神もまた、世界に生まれゆく新たなる価値観の学習によって、老いに抗い、若さを保てるのではないかと考えます。

 もちろんすべてのジャンルを好きになって追いかける必要はないし、すべての価値観を正しいと思う必要はありません。何かを理解すること、存在を認識することと、それを好きになることには大きなギャップがあるからです。しかし、好きになる、の前段階である、異質なものに対する学習と理解は求められてきているのではと思います。「こうしたジャンルもあるんだな」「こうした価値観もあるんだな」という理解があるだけでも、老害になることは防げるのではないか、と感じます。

 それに、おたくクン、もし君のコンテンツが、俺には納得できない、俺の好きなコンテンツではなくなってしまった、となっても、TAKU INOUEはいつでも俺たちのそばにいるよ……。

 

 以上、「老い」について思うことでした。

 ありがとうございました。

 

*1:https://www.youtube.com/channel/UC1zFJrfEKvCixhsjNSb1toQ

*2:https://www.youtube.com/channel/UC8C1LLhBhf_E2IBPLSDJXlQ

*3:https://www.youtube.com/channel/UC9V3Y3_uzU5e-usObb6IE1w

*4:こちらのツイートと後述したブログは、事前にご本人様に本記事での掲載許可をいただきました。ありがとうございます。

*5:俺の知ってるAKBはチーム4までしかなかった……。

*6:https://www.yomiuri.co.jp/s/ims/bijyutukanjyoshi01/

*7:ジェンダー再生産」。

*8:テロメア」で検索。